世界オタク研究所(WOI)は、5月17~19日にイタリア ボローニャで開催された「Nip Pop」に参加、カンファレンスを行ってきました。参加メンバーは事務局担当でKMD(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科)研究員の亀山と、WOIが連携するIOEA(国際オタクイベント協会)のメンバーで作曲家、アニソンDJとして国内外で活躍する砂守岳央さんです。

ボローニャ~Nip Pop

 ボローニャは北イタリアのエミーリア=ロマーニャ州の州都で人口は約39万人、ボローニャソーセージや日本ではボロネーゼソースと呼ばれるラグーソース等が生み出された食の街としても有名ですが、1088年創立のヨーロッパ最古の大学、ボローニャ大学を擁する学問の街でもあり、住民の10人に1人が学生で、さらに同じ数の大学関係者がこの街で生活しています。また、ヨーロッパ有数の児童書マーケット「ボローニャ・ブックフェア」が開催される場所でもあります。Nip Popは、このボローニャで2011年から毎年開催されている日本文化をテーマとしたイベントで、ボローニャ大学で日本文化や日本語を研究する教員や学生が中心になって運営されています。ボローニャ大学では明治維新とほぼ同時期に日本関係の学科が設立されたということです。

Nip Pop 2019

 2019年のNip Popのテーマは「Foodpop」、そこかしこにフレスコ画が残る古い教会を活用したコンベンションセンターを会場に、日本からの様々な分野のゲストによる講演や実演、研究者や学生の研究発表等が行われました。

日本からのゲストは、「食堂かたつむり」の著者で、イタリアでも文学賞を受賞している作家の小川糸さん、マンガ家のえすとえむさん、電通の丸山顕さん、早稲田大学の土屋淳二教授、トリノ在住で日本のマンガを扱う小澄明日香さん等。亀山と砂守さんは2日目にボローニャ大学のPaola Scrolavezza 先生をモデレーターとして「アニメと食」「アニメと音楽」について講演とトークディスカッションを行いました。他にも紙芝居、クッキング、書道や太鼓等のパフォーマンスが行われ、さらに日本の古いゲーム機の体験コーナーや日本酒の試飲コーナー、日本食の試食コーナー等、日本文化に触れる様々な仕掛けが用意されています。

 また、これらに並行してイタリアの研究者、学生による研究発表、カンファレンスが行われました。主な発表のテーマは以下の通りです。食べ物を中心に日本文化を扱ったテーマが並びます。
 「日本女流文学におけるエロスと食」
 「マンガ・アラカルテ:グルメ漫画」
 「谷口ジローのグルメ」
 「令和の到来 日本皇族の苦楽」
 「日本の食文化 ローカルフードからグローバルフードへ」
 「日本酒の今:数千年の歴史を持つ酒の進化」
 「もえの感覚」
 「果物の価値」
 「和食を語る レシピとイメージ」
 「江戸時代の料理:史実とポップバージョン」
 発表を聞くのは、ボローニャ大学の教員をはじめとする研究者や学生で、次々に質問が飛ぶ活発な議論が行われました。

 イベントの参加者は、研究者、学生を中心としながらも、近隣から来たと思われる親子連れなどの姿もあり、3日間中の2日間が雨というあいにくの天気の中ではありましたが、暖かい雰囲気の中で、手裏剣投げ体験や試食、試飲を楽しむ姿も印象的でした。

所感…講演を終えて

 イタリアでは、50年以上前から日本のアニメが放送されており、1978年には「UFOロボ グレンダイザー」が「UFO Robot Goldrake」として放送され大ヒットしました。この番組の後を受けて放送された「鋼鉄ジーグ」(Jeeg Robot d’acciaio)が日本以上にヒットして、作品名をタイトルに入れ込んだ2015年の映画「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」(Lo chiamavano Jeeg Robot)がイタリア国内で空前の大ヒットとなったことは印象に新しいところです。
 マンガに関してもPanini Spa社、Star Comics 社といった現地の出版社が日本のマンガを美しい装丁の単行本として出版し、専門店でない一般の書店にも、イタリア人クリエーターの作品を交えた大きなマンガのコーナーが置かれるようなそれなりに大きな市場があります。ローマで毎年春秋に開催されているマンガ、アニメを中心としたイベント「ロミックス(Romics)」は、今春の開催に20万人の参加者を集めています。

 こうした背景の中、学問の街ボローニャで開催されるNip Popは、研究者、学生による研究発表や私たちが参加したようなカンファレンスが主体となっているところに、大きな特徴がありました。日本で開催されるアニメ、マンガ関連のイベントは企業ブースとステージが中心で、学術系の発表は学会のようなクローズドの場で行われることが多いのですが、欧米のイベントではこうしたプログラムが含まれることがかなりあります。その中でもNip Popはコスプレーヤーが集まる他のイベントとは一線を画す知的な印象が残るイベントでした。私は現地の研究者に通訳していただきながらライプチヒ大学の博士課程の学生による「もえの感覚」という発表を聴講しましたが、教員や研究者から矢のように質問が飛び、持ち時間をオーバーする活発な議論が行われました。勿論、言語の問題は解決しなければなりませんが、日本からの研究者がこうした議論に参加して意見交換するような場が作りたい、そうした仕事を世界アニメ研究所が担いたいと強く感じました。

カテゴリー: レポート