展覧会概要

  • タイトル:「The Citi exhabition Manga マンガ」
  • 主催:大英博物館
  • 共催:国立新美術館、(一社)マンガ・アニメ展示促進機構
  • 協賛:シティグループ
  • 会期:2019年5月23日~8月26日
  • 会場 :大英博物館 (セインズベリー・エキジビション・ギャラリー )
  • 入場料:大人 £19.5

イギリスのマンガ、アニメ状況

 ヨーロッパでは、フランス、イタリア、スペインと言った国で1970年前後から日本のアニメが放送されており、「UFOロボグレンダイザー」のような作品が大ヒットしてアニメブームが起こりました。
 さらにフランスのグレナ、イタリアのパニーニ、スペインのダルマといった現地の出版社が積極的にマンガの翻訳出版を行うことでマンガの市場が形成されました。これに対し、イギリスは表現に関する規制の問題もあり、これらの国々のよう日本のマンガやアニメが一般的に親しまれる状況は生まれませんでした。

 さらにフランスのグレナ、イタリアのパニーニ、スペインのダルマといった現地の出版社が積極的にマンガの翻訳出版を行うことでマンガの市場が形成されました。これに対し、イギリスは表現に関する規制の問題もあり、これらの国々のよう日本のマンガやアニメが一般的に親しまれる状況は生まれませんでした。

 しかし、2000年代に入って、同じ言語を使うアメリカ系の出版社が徐々にイギリスでのマンガ出版を始め、小さいながらもマンガ市場が築かれて、マンガを読む習慣は一部の人に根付いていきました。
 現在ではViz Media やKodansha Comicといった日本系の出版社を中心に人気作品が出版され、電子化も行われています。
 アニメに関してもNetflixやCrunchyroll、ANIMAX UKといった映像配信メディアで大人向けの作品を視聴する環境が整っています。また、2015年には「かぐや姫の物語」が劇場公開され、「君の名は」「ソードアート・オンライン・オーディナリースケール」「ドラゴンボール超ブロリー」といった作品も他国に比べれば小規模ではありますが、公開されています。

 こうした状況の中で開催が始まった「Manga マンガ」展は、国外のマンガ関連の展覧会としては最大規模で、広さ1,100㎡の会場に50人の作家による70作品、162点の原画が展示されています。メインビジュアルは「ゴールデンカムイ」のアシリパです。地下鉄の駅などロンドンのそこかしこでアシリパのビジュアルを目にします。

 展覧会は、6つのゾーンで構成されます。各ゾーンの中にはさらに細分化されたコーナーが設置される形で、マンガの幅広い領域が表現されています。
 導入部はテニエルによる「不思議の国のアリス」のイラストです。さらにCLAMPさんの「不思議の国の美幸ちゃん」、こうの史代さんの「ギガタウン 漫符図鑑」のキャラクター“みみちゃん”と、アリス~ウサギのつながりをたどりながらゾーン1に入ります。
 各ゾーンのタイトルは以下の通り

  • ゾーン1「マンガという芸術」The art of Manga
  • ゾーン2「過去から学ぶ」Drawing on the past
  • ゾーン3「すべての人にマンガがある」A Manga for everyone
  • ゾーン4「マンガのちから」 Power of Manga
  • ゾーン5「マンガとキャラクター」Power of line
  • ゾーン6「マンガ-制限のない世界」Manga : no limits

 ゾーン1では、「ギガタウン 漫符図鑑」を通してマンガの読み方を解説。ゾーン2では、書店や少女マンガ等にも注目しつつ、マンガの発展の歴史を探ります。ゾーン3では、恐怖-Horror、SF-Sci-fi : new frontiers  、変身-Transformation 、ダイナミックサウンド-Music : turn it up等のコーナーに分かれてマンガで描かれる世界の幅広さが紹介されます。さらにゾーン4ではコスプレやコミックマーケットといったマンガから発生していった文化を紹介。ゾーン5では葛飾北斎や河鍋暁斎といった画人が描いた作品と現代の作品を比較しつつ、過去と現代の関係を探ります。ゾーン6ではマンガから派生して産業として成長していったアニメやゲームに触れていきます。

 手塚治虫さんからpixiv出身の若手作家、戦後まもない頃の教育雑誌から同人誌まで幅広い原画や資料の実物展示の中に、コミック高岡の風景再現や、元週刊少年ジャンプ編集長で現在白泉社会長の鳥嶋和彦さんらマンガをプロデュースする側に方々のインタビュー映像、忙しそうなマンガ雑誌編集部のの映像等が織り交ぜられた極めて情報量の多い展示の中で、マンガの表現力、影響力、キャパシティが表現されていたと思います。
 また、マンガを読む習慣のない来館者がマンガを知ることができるような配慮もよくされていました。最初にイギリスのマンガ、アニメの受容状況について触れましたが、こうした展覧会は各国の受容の歴史と状況により、内容が変わってくるものと思われます。マンガをテーマとした展覧会にしても開催場所がイギリスとパリでは全然内容が違ってくるでしょう。ただ、大英美術館が今回のような展覧会を行うことで、イギリスにおけるマンガの受容に対しては大きな影響があるであろうとも思われます。

 なお、この展覧会の図録は、

  1. Understanding Manga through Reading, Drawing and Producing
  2. The Power of Storytelling
  3. The Power of Seen and Unseen Worlds
  4. Manga and Society
  5. Motion Through Line
  6. Expanding Manga’s Boundaries

の6章からなる350ページの大ボリュームです。展覧会の内容を補完するとともに資料的価値も高いものと思われますので、ご興味ある方は是非。
価格は£29.95です。

‘The Power of Shoujo Manga’@在英日本大使館

 「Manga マンガ」展開催初日の夜、在英日本国大使館では開催を記念して、この展覧会のキュレーターのニコル・クーリッジ・ルーマニエールさん、マンガ家の萩尾望都さんらによる座談会と記念レセプションが開催されました。在英日本大使館ではマンガを使った取り組みとして、毎年何らかの課題に従ったマンガを英国在住者から公募し、 優秀者を表彰するマンガ制作コンテスト「Manga Jiman」を2007年から開催しています。鶴岡駐英大使のスピーチの端々にもマンガをはじめとする日本産コンテンツへの期待と造詣が感じられました。座談会はルーマニエールさんの質問に萩尾さんが答える形で進み、図録にも掲載された作品「柳の木」の解説を交えながら、制作の裏側など、萩尾さんの人柄がにじみ出る魅力的なトークとなりました。
 また、この翌日には大英博物館内で「キャプテン翼」で知られるマンガ家の高橋陽一さんとサッカー元日本代表のアルベルト・ザッケローニさんのトークイベントも開かれました。

以上で報告を終わります。
今回の視察にあたりお世話になった皆様、ありがとうございました。