亀山泰夫
世界オタク研究所主席研究員
博士(メディアデザイン学)

 昨年7月に「Covid-19の蔓延による日本のアニメ産業への影響」[1](以下「2020年7月レポート」とする)と題したレポートを発表して約8カ月が過ぎた。本稿においては、現時点(2021年3月中旬)の状況を報告するとともに、Covid-19蔓延以後の日本及び世界のアニメ産業について検討する。
 なお、新型コロナウィルスに関して2020年7月レポートではWHOが命名した正式名称を用いて「Covid-19」としたが、本稿においては、一般に使われることが多い「新型コロナウィルス」を用い、「新型コロナウィルスの蔓延」に関しては、これを短縮した形で使われることが多い「コロナ禍」という表現を用いることとする。


テレビアニメの回復状況

 2020年7月レポートでは、新型コロナウィルス感染拡大の影響を受けて、30分番組にして200話分以上のテレビアニメが放送延期となったことを報告した。シリーズの途中で放送延期となった4月アニメ(4月に放送を開始するテレビシリーズ)の多くは、延期期間中は再放送等を行った上で、同じ放送枠で放送を再開し、これに伴い、7月アニメの一部は放送開始を10月以後に延期した。
 図1は、制作期間が短く、企画から放送開始までの期間も短いミニ枠や番組内アニメ、単発番組を除いて比較するために、「各話の放送時間10分以上、5話以上で構成されたテレビシリーズ」と条件を付けて2019年1月クールから2021年4月クールまでの新作テレビアニメのタイトル数を比較したものである。
 2020年7月アニメの新作タイトル数は、前年同時期(35タイトル)の約62.8%となる22タイトルに減少した。また、2020年10月アニメの新作タイトル数は、前年同時期(47タイトル)の約83.0%の39タイトルと減少した。2020年全体で見ると、上記の条件を付けた新作テレビアニメシリーズのタイトル数は、前年の157タイトルの89.1%となる140タイトルに減少した。
 この7月、10月クールのタイトルの減少分(18タイトル)を1クールもののテレビアニメの標準的な話数(12話)に直して考えると、合計は216話となり、4月以後に放送延期となった話数とほぼ一致する。4月以後に放送延期となった分が後のクールにずれ込んで、新作の放送開始時期をさらに後ろにずれこませたということだ。
 上記の条件を付けた2021年1月クールの新作アニメは、本稿執筆時点で、過去2年の1月クールのタイトル数(2019年=35タイトル、2020年=37タイトル)を大きく上回る48タイトルが放送を開始している。2021年4月クールに関してもすでに51タイトルの新作シリーズの放送あるいは配信の開始が発表されており、1月、4月クールを合わせて、前年の減少分が吸収されていくことが予想される。

図1 2019年~2021年4月 各クールの新作テレビアニメシリーズ数 

*対象は1話の放送時間が10分以上で、5話以上で構成されるテレビアニメシリーズ
*配信から6カ月以上が経過した配信アニメのテレビ放送版を除く
*2021年1月は、2021年3月初頭時点での放送開始タイトル数、2021年4月アニメは放送開始告知済タイトル数



 テレビアニメシリーズは1クール(12~13話)のものもあれば2クール(24~26話)のものもあり、単純にタイトル数だけの比較で考えることは大雑把ではあるが、放送時期が未定であるもののアニメ化が発表されて制作が進行している企画も数多く控えており、制作現場が“with コロナ“の状況に対応した環境を整える中、2020年4、7月クールの新作減少分を2020年10月、2021年1、4月クールで補って回復したと考えられる。
 一般にテレビアニメは企画から放送まで約2年かかると言われており、この間に、製作委員会の組成、スタッフィング、放送枠の取得、シリーズ構成やキャラクターデザインといったプリプロダクションを経て、実際の制作やプロモーションの段階を経て放送に至る。
 そのため、コロナ禍の企画面への影響が目に見えてくるのは2022年に入ってからと思われる。しかし、現時点で2021年4月以後のテレビアニメ化あるいは配信アニメ化を発表した放送前の企画は200タイトル前後あり、数の上では、コロナ禍以前と同様の規模が維持されている。しかし、コロナ禍による環境の変化とともに、動画配信サービスの影響力拡大というメディアの変化の様相もあり、企画内容の変化は今後に現れるものと考えられ、引き続き注視したい。


劇場用アニメの回復状況

 2020年7月レポートでは、2020年に公開を予定していた劇場用アニメ映画26タイトルが劇場公開を延期した状況を報告した。この26タイトルのうち、14タイトルは2020年12月までに公開され、10タイトルが2021年1月以後の公開予定を発表した。これらの作品は最短で3カ月から最長で13カ月公開を延期している。残り2タイトルのうち、1タイトルは公開時期未定、もう1タイトルは、劇場での公開予定をNetflixの独占による全世界公開に切り替えた「泣きたい私は猫をかぶる」で、当初の公開予定とほぼ同じタイミングの2020年6月に配信を開始し、同年10月以降、東日本を中心に劇場での公開を開始した。
 2020年4月の特別措置法による緊急事態宣言以後、多くの映画館が休館し、アニメに限らず、この時期に公開を予定していたほとんどの劇場用映画が公開を延期した。緊急事態宣言解除以後は、入場人員を制限して感染症対策を行った上での公開が開始された。新作映画の公開が少ない中、東宝系で公開されたスタジオジブリの「風の谷のナウシカ」、「もののけ姫」、「千と千尋の神隠し」、「ゲド戦記」は、2020年6月26日から全国372館で公開され、同年9月末日までに4作品で26.2憶円の興行収入をあげた[2]
 8月に入ると、春休み時期の公開を延期した作品の公開が徐々に始まった。8月7日には3月7日の公開を延期した「ドラえもん のび太の新恐竜」が公開され、33.5憶円の興行収入をあげた[3]。「ドラえもん」の劇場用映画は、1980年から40年にわたって毎年春休み時期の公開を続けてきたが、天災や疫病の影響を受けたのは、公開開始直後に東日本大震災が起きた2011年の「ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団~はばたけ天使たち~」以来2度目で、公開延期は初めてのことである。一般に大型の劇場用アニメ映画は、公開時期にあわせて企業とのコラボレーションを含む周到なプロモーションを行う。コラボ商品や関連出版物の発売、作品の映像やキャラクターを使った販促キャンペーン等を公開時期に集中させて気運を盛り上げることで、これらはプロモーションの大きな柱となる。こうしたコラボの多くは、映画の延期に対応ができず、当初の予定通りに実施され、映画本体はプロモーションの柱のひとつを失う形で公開された。公開を延期した映画の多くが、このような影響を受けた。2020年のドラえもん劇場用映画の興行収入がここ数年の作品(2017年=44.3億円、2018年=53.7憶円、2019年=50.2憶円)に比較してやや物足りない数字となったのは、座席がフルに使えない状況での公開というハンディキャップに加え、こうしたプロモーション面での影響も一因となったと考えられる。
 9月19日、政府からのイベントの開催制限が条件付きで緩和され、マスク着用など新たな生活様式を満たした上で、声を発しない屋内イベントでは収容人数の100%の観客入場さが可能となった。この時期から劇場内での食事を制限するなどの措置の上で収容人数いっぱいの座席を使った営業を開始する映画館が増加していった。
 今年3月15日時点で386億円(興行通信社調べ)の興行収入を上げ、国内の映画興収記録の更新を続ける劇場用映画「鬼滅の刃」 無限列車編(以下、「鬼滅の刃 無限列車編」)は、まさにこのタイミングで公開された。2020年10月16日の公開時期は当初の予定通りであり、この年に公開を予定していた劇場用アニメ映画の中で、予定通りに公開された数少ない作品のひとつである。
 日本映画製作者連盟の発表[4]によれば、2020年の邦画の年間総興行収入は1,092億7,600万円で、前年比は76.9%である。「鬼滅の刃 無限列車編」が2020年中にあげた興行収入は、365.5億円で、邦画の総興行収入の1/3強、洋画も含めた総興行収入1,432億8,500万円の1/4を占める。仮にこの作品がなかった場合、邦画の総興行収入の前年比は約51%に落ち込んでいた計算になる。この作品のヒットは、コロナ禍に直撃された映画業界にとって、それほど大きいものだった。
 この社会現象的ヒットには、やはりコロナ禍の社会状況が影響していると考えられる。勿論、作品のヒットの要因は、作品の持つ魅力が第一だし、テレビアニメの放送前から劇場用映画の公開まで、緻密に積み重ねたプロモーションも大きな要因となる。原作の行間を丁寧に読んで表現したアニメのクオリティの高さも大きな魅力だ。しかし、10年20年に一度の大ヒットの背景にはコロナ禍の中でエンターテイメントを求める社会状況があるものと思われる。
 新型コロナウィルスの感染拡大が日本国内で本格的に始まってから約1年、私たちは”withコロナ”の前提付きながら、徐々に日常を取り戻している。しかし、外で楽しむ非日常のエンターテイメントに関しては、映画や演劇が以前の公開形式に戻ったのはほんの数カ月前であり、音楽ライブや大型イベントに関しては、昨年11月末以降に検討されていた規制緩和が延期され、再度の緊急事態宣言が延長される中で、なかなか先が見えない。こうした状況の中で映像配信の需要拡大とともに起こったことが、制限された状況下で手に入るエンターテイメント、つまりテレビドラマや映画への注目だったのではないか。
 緊急事態宣言が解除された後の昨年7月クールは、テレビドラマで大ヒットが生まれた。本来、夏の時期は人々が出歩く機会が増えてテレビの視聴率は下がる傾向にあるが、この夏は、通常1クールに1作品あるかないかの大ヒットドラマが、「半沢直樹(全話平均世帯視聴率24.7%[5]」、「わたしの家政婦ナギサさん」(全話平均世帯視聴率19.6%[6])と2作品生まれ、さらに朝ドラの「エール」(全話平均世帯視聴率20.1 %[7])は放送期間を通じて話題を呼び続けた。そして、映画館がフルキャパシティの営業を始めた10月以後は「鬼滅の刃 無限列車編」が大ヒットし、コミックをはじめとする出版物、主題歌、キャラクターを使った関連商品や販促キャンペーン等を加えた大きな波となり、社会現象化した。
 表1は、2020年の国内映画興行収入のベスト10である。日本映画製作者連盟の発表数字をもとに作成した。「鬼滅の刃 無限列車編」の群を抜いた成績は勿論だが、緊急事態宣言解除直後に公開された作品が人々を惹きつけ、映画館に足を運ばせたことを物語っている。
 また、例年であればランキングの半数を占めるアニメ映画は、春休み、ゴールデンウィーク、夏休みといった稼ぎ時に公開を予定した作品がコロナ禍で延期を余儀なくされたことで、ランキング入りは「鬼滅の刃 無限列車編」」、「ドラえもん」と、京都アニメーション制作の「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の3作品にとどまった。

表1 2020年国内映画興行収入ベスト10

  タイトル 配給 封切時期 興行収入
1 劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編 東宝/アニプレックス 10月 365.5
2 スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け ウォルト・ディズニー・スタジオ 19年12月 73.2
3 今日から俺は!!劇場版 東宝 7月 53.7
4 パラサイト 半地下の家族 ビターズ・エンド 1月 47.4
5 コンフィデンスマンJP プリンセス編 東宝 7月 38.4
6 映画ドラえもん のび太の新恐竜 東宝 8月 33.5
7 TENET テネット ワーナー・ブラザース 9月 27.3
8 事故物件 怖い間取り 松竹 8月 23.4
9 東宝 8月 22.7
10 劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン 松竹 9月 21.3

*興行収入の単位は億円 日本映画製作者連盟の発表をもとに筆者作成 



 明けて2021年、冬を迎えて新型コロナウィルスの感染は再度拡大し、病床がひっ迫する中、1月8日、東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県に緊急事態宣言が発令され、大阪、兵庫等の大都市圏が加えられた。本稿執筆中の3月15日現在も首都圏の1都3県の緊急事態宣言は解除されていない。緊急事態宣言のもとで、映画館の営業は20時までに自粛されている。
 そうした中、1月23日の公開を延期した「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」は、3月8日に公開を開始した。もともとは昨年6月の公開をコロナ禍の状況を鑑みて延期したこともあり、3度目の正直ということになったが、このシリーズの前作にあたる「ヱヴァンゲリヲン新劇場版Q」は2012年の公開で52.6億円(興行通信調べ)の興行収入をあげており、期待は大きい。公開にあたっては、全国434館がブッキングされ、「鬼滅の刃 無限列車編」と同様に、大型のシネコンでは複数の劇場を使って1日10数回の上映スケジュールが組まれている。首都圏1都3県の緊急事態宣言の解除は延期されたが、昨年とは異なり、感染に気を使いつつも多くの人が外で活動している。こうした状況の中で「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」への反響が注目される。
 一方、海外をみるとどうだろう?欧米の感染状況は収まる気配がない。映画館の営業時間の規制や営業中止の措置をとる国も多く、特にアニメーションに限ったことではないが、2020年の公開を予定した多くの作品が、コロナ禍の影響を受けて公開延期を余儀なくされた。日本映画製作者連盟の発表によれば、2020年の洋画の総興行収入は前年の約1,189億円から340億900万円と大幅に減少した。前年比は28.6%である。こうした状況の中で、動画配信サービスの役割が変化している。
 ウォルト・ディズニー・カンパニー(WDC)関連作品の動きをみると、ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ製作の「ムーラン」(実写版)の公開は、数回の延期発表を経て、WDC傘下の動画配信サービスのディズニー+からの有料配信に切り替えられた。ピクサー・アニメーション・スタジオ制作の「ソウルフル・ワールド」も、ディズニー+での公開に振り替えられた。さらに、ウォルト・ディズニー・ピクチャーズとウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ製作の「ラーヤと龍の王国」は映画館とディズニー+との同時公開となった。これらはいずれもコロナ禍で起きたことだが、動画配信サービスの存在感がNetflixのような専業会社の台頭のみならず、WDCのような映像コングロマリットにおいても大きく拡大している。
 今年3月、WDCは、ディズニー+の世界契約者数が、2019年11月のサービス開始から16カ月で1億人を突破したと発表した[8]。WDC関連作品が持つ魅力も勿論大きいが、コロナ禍で世界の多くの劇場が営業を制限されたことが後押しとなったことは間違いないだろう。3月に入ってからの動きとして、観客数を25%以下にすることなどを条件としたニューヨークの映画館の営業再開も報じられているが、日本や中国など東南アジアの一部の地域を除いて、世界の映画興行の復活の道はまだ見えていない。こうした状況は、世界での人気を背景に国際展開を進める日本のアニメ産業界にも影響することと思われる。

国内外のコンベンションやファンイベント等の状況

 2020年7月レポートでは、国内外の多くのファンイベントやコンベンションが中止あるいはオンライン化されたことを報告した。
 そして、現在もこうしたイベントに関しては厳しい状況が続いている。各地でのワクチン接種の開始が報じられているが、多くのイベントは依然としてリアルでの開催を避ける状況が続く。
 表2は国内外の主要なアニメ、マンガ関連イベントの2020年の動向をまとめたものだが、感染が早い段階で鎮静化した中国や台湾を除くほとんどの地域で、開催中止あるいは翌年への延期、オンラインイベントとしての開催といった形で影響を受けている。

表2 2020年 世界の主なアニメ・マンガ関連イベントの開催状況

地域 イベント名称 当初予定 状況
日本 アニメジャパン2020 3/21~24 中止(次回予定:2021 3/27~30)
アメリカ SAKURA-CON2020 4月 中止(次回予定:2021 4/2~4⇒中止)
アメリカ Anime Expo2020 7/2~5 延期(⇒2021 7/2~5)オンライン版開催
フランス Japan Expo 7/2~5 延期(⇒2021 7/15~18)
イギリス HYPER JAPAN 7/10~12 延期(⇒2021 7/10~12)
アメリカ Comic-Con International 7/23~26 中止・オンライン版開催(7/22~26)
中国 COMICUP 7/25、26 開催
アメリカ Otakon2020 7/31~8/2 中止・オンライン版開催(8/1)
カナダ Animethon 8/7~9 延期(⇒2021 8/6~8)
台湾 Fancy Frontier 8/22、23 開催
日本 京都国際マンガ・アニメフェア 9/19、20 開催
ドイツ Dokomi 6月 延期して開催(9/26、27)
中国 中国国際動漫節 9/29~10/4 開催
スペイン Manga Barcelona 10/30~11/1 オンライン開催(10/30~11/1)
シンガポール Anime Festival Asia Singapore 12/4~6 オンライン開催(12/5、6)
日本 東京コミコン 12/4~6 オンライン開催(12/4~6)

各イベントの発表をもとに筆者作成



 2020年夏以降、アジアでは、上海の「COMICUP」(7/25、26)、台北の「Fancy Frontier」(8/22、23)といった大型イベントがリアル開催され、ヨーロッパでも感染が一時鎮静化した9月に、6月の開催予定を延期したドイツ:デュッセルドルフの「DOKOMI」が入場人員制限、一部規模縮小の上でリアル開催された[9]
 しかし、ヨーロッパの感染状況は、秋が深まるとともに悪化し、当初リアル開催を目指していたスペイン:バルセロナの「Manga Barcelona(旧称:「Salon del Manga de Barcelona」)はオンラインイベントに切り替えての開催(12/5~6)となった。米国の感染状況は好転の兆しがなく、毎年4月に開催されてきたシアトルの「SAKURA-CON」は1月下旬に2021年の開催中止を発表[10]、毎年7月の独立記念日週に開催し延べ35万人の参加者を集めるロサンゼルスの「Anime Expo」も3月に入り、2021年のリアル開催の中止とオンラインイベント「Anime Expo Lite」の開催を発表した[11]
 国内では、やはり感染が一次鎮静化していた9月に「京都国際マンガ・アニメフェア2020」がリアル開催された。マスク着用、入場前の体温測定、手指消毒に加えて時間制チケットの導入、ソーシャルディスタンスの確保といった感染症対策を行った上での2日間の開催は、
 前年の4割程度の19,511人となったが、現地からステージイベントのオンライン配信を実施し、8万人を越える視聴者を集めた[12]。しかし、2021年3月開催予定の「アニメジャパン2021」はリアルとオンラインのハイブリッド開催を目指していたが、2月に入り、オンラインのみでの開催となることを発表した。さらに、コミックマーケット準備会は、緊急事態宣言の延長を受けて、5月2~4日に開催を予定していた「コミックマーケット99」の中止を発表した[13]
 アニメやその原作となることが多いマンガは、単に放送局や出版社といった送り手と視聴者や読者といった受け手という単純な関係で成り立っているものではない。ファンたちが作るコミュニティとその活動は大きな影響力を持ち、ファンたちがリアルに結集する最大の機会となるファンイベントは重要な意味を持つ。勿論、ファンたちの活動はオンライン上で継続されているのだが、長期間にわたるリアルイベントの休止は、作品づくりやビジネスの形態に影響する可能性が高い。また、オンラインイベント参加への対価は、リアルに開催されるイベントの収益をカバーできるものでは必ずしもなく、現状が継続されれば、運営する会社や団体の存続に影響することも考えられる。この種のイベントは特に海外においては、開催される地域にとって重要な位置づけを占めるものも多く、適切な支援の検討が求められるところだろう。


アニメに関連するライブエンタテイメントへの影響

 日本を含む各国でワクチン接種が開始されたことでイベント開催の状況が好転するかどうかは、東京オリンピック・パラリンピックの開催とともに注目されるところだが、アニメ産業に関して言えば、ファンイベントやコンベンションの他にも大きな影響を受けた部分がある。
 アニメに関連するライブエンタテイメントは、アニメ産業がテレビ放送と関連商品の販売という図式から多角化し、360度ビジネスに変貌する中で発展し、拡大したが、これらの多くが昨年の緊急事態宣言のもとで開催中止や規模縮小という形で大きな影響を受けた。
 アニメに関連するライブエンタテイメントには、アニソンコンサートや舞台、声優や制作スタッフによるライブイベント、展覧会、コラボレーションカフェでのコラボなど様々に拡大しており、これらは多メディアを使ってIPからの収益最大化を目指すメディアミックス戦略の一翼をなしており、イベント単体の興行以外に大きな機能を果たしている。
 例えば「ラブライブ!」シリーズや「アイドルマスター」シリーズの出演者によるライブは、収容人員数万人のドームやアリーナ会場を使った全国ツアーを行い、100館以上の映画館を使った大規模なライブビューイングを実施し、さらにライブの模様をBDやDVDとして販売している。こうしたライブとアニメやゲームを組み合わせたプロジェクトは、近年のアニメ企画の大きな流れのひとつとなっている。
 こうしたライブを柱とした企画以外でも、出演声優、監督、脚本家等による番組イベントや、作品内容からイメージするメニューを提供するコラボレーションカフェは、プロモーションの有効な手段として、ほとんどの成年向けアニメで実施されており、熱心なファンに向けた関連商品販売の場としても機能している。
 こうしたライブエンタテイメントのほとんどがコロナ禍の影響を受けた。番組イベントの多くは配信イベントに切り替えられ、ライブコンサートは、有料配信ライブや入場人員を削減した形でのライブ再開という形で対応が始まっているが、コロナ禍以前の収益やプロモーション効果を回復するに至ってはいない。テレビアニメにしろ、劇場用アニメにしろ、1作品1作品は制作費や媒体費、プロモーション費に対するリクープを放送や上映だけでなく幅広い周辺事業からリクープし、収益を上げる事業であり、この収益手段の柱のひとつがコロナ禍によって大きな打撃を受けたということになる。こうした状況は、コロナ禍以後、新規に立ち上げられる企画の形にも影響していくことと思われる。
 日本のテレビアニメはコロナ禍で、放送の休止や延期という形で影響を受けたが、関係者の努力や工夫のもとに対応し、回復した。劇場用アニメも、国内においては映画館の営業が再開し、今後の感染状況に予断は許せないものの回復の途上にある。
 しかし、アニメ産業は制作とテレビ放送や映画の公開だけで成立しているわけではない。
 今日、アニメ産業はライブエンタテイメントを含む様々な要素で構成されており、これらはコロナ禍による打撃を受け、配信やECではまだ補いきれていない。また、多くのファンがリアルに結集する場として機能するファンイベントも復活していない。
 これらを含むアニメ産業全体の回復は今後のコロナ禍の帰趨にもよるが、すでに社会は現状に対応した変化を始めており、”with コロナ”を前提とした新たな企画のかたちが生まれてくることも考えられる。変化の兆しは徐々に表れてくるものと思われるが、注視してレポートを継続したい。


[1] 世界オタク研究所(2020)「Covid-19の蔓延による日本のアニメ産業への影響」 

[2] http://animationbusiness.info/archives/10481

[3] https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2101/27/news147.html

[4] http://eiren.org//toukei/index.html

[5] https://www. oricon.co.jp/news/2172889/full/

[6] https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2020/09/02/kiji/20200902s00041000295000c.html

[7] https://news.biglobe.ne.jp/entertainment/1201/spn_201201_5839117697.html

[8] https://www.asahi.com/business/reuters/CRBKBN2B12HB.html

[9] https://ykigchi.com/2020dokomi/

[10] http://sakuracon.org/2021/01/sakura-con-2021-cancellation/

[11] https://www.epicdope.com/anime-expo-turns-virtual-after-cancelling-the-event-for-2021/

[12] http://animationbusiness.info/archives/10397

[13] https://animeanime.jp/article/2021/03/08/59977.html

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