亀山泰夫
世界オタク研究所研究員
博士(メディアデザイン学)

 Covid-19蔓延による日本のコンテンツ産業に対する影響は、2月下旬から顕著になった。2月26日に安倍総理から出た大規模イベントの自粛、縮小等の要請を受け、同日に開催予定だった東京ドームのPerfume、京セラドーム大阪でのEXILEの公演が急遽中止となった。ほぼ同時期に演劇公演の自粛が始まり、ライブハウスでのクラスター発生が指摘され、小規模なものも含めてライブイベントの開催が自粛されるようになった。さらに、4月7日に東京他7都道府県、4月16日には全都道府県に特別措置法に基づく緊急事態宣言が発令され、多くの映画館が休業に入った。また、緊急事態宣言に伴って多くの制作現場がその動きを止めた。リモートによる制作は継続されたが、制作をリモートに完全移行できるコンテンツは一部であり、現場は混乱し、新作の供給は大幅に減少した。

 音楽やマンガ、アニメ等の分野に関しては、従来のメディアから配信メディアへの移行が進展する中でこの問題が起きた。音楽に関しては、CDから音楽配信、さらには定額制配信への移行が進んでおり、マネタイズの手段としてライブやライブビューイングの役割が大きくなる中で、映画に関しては、従来の劇場での上映に対してNetflix等の配信プラットフォームが台頭し、さらにワーナーやディズニー等がプラットフォームを立ち上げてまさに役者が揃うという状況の中で、マンガに関しては、配信の売上が伸長し、日本国内のコミックスの売上において配信の売上が紙版の売上を上回るという状況の中で、アニメに関しては、ビデオグラムの売上が減少し、海外の配信プラットフォームの影響力の拡大、ライブイベントや飲食と組み合わせた360度のビジネスモデルの拡大が進む状況の中で、つまり様々な分野でリアルとデジタルがせめぎあう中でCovid-19の問題が発生した。

 Covid-19の蔓延によるリアルでの活動の制限は、様々な分野の活動のデジタル化、オンライン化を急速に促したと言われている。WOIでは、アニメ産業に注目して、Covid-19の蔓延による影響を調査し、分析することで“withコロナ”の環境下での方向性について考えてみた。

  以下、放送・配信、劇場上映、関連イベント、関連商品への影響について、2020年6月末日時点での状況報告とともに所感を加える。


1.アニメの制作、放送・配信への影響

 各タイトルの公式HPや放送局のHPの情報をもとにテレビ放送や配信で新作を発表する主要アニメタイトルへの影響を、調査した。
 対象は、正味で20分以上の新作を毎週1回以上あるいはそれに準ずるペースで放送あるいは配信しているアニメシリーズで、2020年4月期以前から放送を継続するテレビアニメシリーズ18タイトル、2020年4月期に放送あるいは配信を開始したテレビアニメシリーズあるいは配信アニメシリーズ47タイトル、計65タイトルに関し、公式HP等をもとに調査した(詳細は「調査1」参照)。

 対象とした65タイトルのうち約45%にあたる29タイトルが、新作作品の放送あるいは配信の延期という形で影響を受けていた。この他に放送開始以前の時点で放送開始時期を4月から7月に延期したタイトル(「Re:ゼロから始める異世界生活」第2期、「ノー・ガンズ・ライフ」第2期など)もあり、実態としては、半数以上のタイトルがCovid-19蔓延により、新作の放送や配信に影響を受けたものと思われる。

 影響を受けたタイトルの多くは、4月下旬から5月上旬にかけての放送分から新作の放送を延期し、6月下旬から7月上旬の時期に新作の放送を再開あるいは再開予定の発表を行っている。この間、約2か月の放送については、同じタイトルの傑作選や振り返りという形ですでに放送したエピソードの再放送を行ったものが多い。6月30日時点で新作の放送再開あるいは再開予定を発表したタイトルも多数あるが、一部の番組の新作放送再開にあたっては、7月から別の新作を予定していた放送枠を使ったケースも多く、このために2020年7月期に放送開始する新番組は、前年同期の約半分となった。7月期の放送開始を発表していて10月期以後に放送開始を延期したタイトル(「ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-Rhyme Anima」、「魔法科高校の劣等生 来訪者篇」等)も10タイトル以上あり、こうした玉突き現象は当分続くだろう。

 勿論、影響は単に放送や配信の延期だけではない。日本のテレビアニメの多くは、最初期のシリーズの放送開始以来50年以上にわたって、放送と周辺事業を同時展開することで収益を最大化するビジネスモデルのもとで製作されてきた。周辺事業の展開は、昨今さらに拡大、複雑化しており、各タイトルの製作委員会の周辺事業への依存度が高まる中で、番組の放送延期に伴う関連商品販売の中止や延期、番組関連イベントの中止や延期が起こり、タイトルごとの収支には大きなマイナスの影響を及ぼしたと考えられる。
 日本動画協会が毎年刊行する「アニメ産業レポート」の2019年版では、2018年のアニメ産業市場に占めるライブエンタテイメント市場の割合は全体2兆1.814億円のうちの5%弱にあたる774億円としている。しかし、実態としての影響はこの数字にとどまらない。各タイトルのプロモーション手段としての機能、関連商品販売の場として機能等、ライブエンタテイメントの波及効果は大きく、中には企画そのものの柱となっているケースもある。昨今は出演声優によるライブコンサートやステージイベントとテレビアニメを組み合わせた企画も多く、柱となるライブイベントの先行きが見えなくなったことで、企画自体の進捗が鈍ることも考えられる。

 図1、2は、調査対象とした番組、を深夜に放送される大人向け作品と、土日の午前中やプライムタイムで放送されるキッズ・ファミリー向けの作品に分けて、放送や配信に対する影響を比較したものである。ここに見られるように、大人向け作品よりも、キッズ・ファミリー向けの作品への影響が大きい。原因としては、Netflixの独占配信タイトルや、配信開始前の全話検閲が求められる中国での同時配信を前提とした大人向け作品が4月以前の段階で全話(12~13話のタイトルが多い)を完成していたことが考えられる。ただ、Covid-19の蔓延による制作活動への影響は全ての制作現場に対して起きたことであり、2020年7月期以後の新番組にも現れるものと考えられる。一般的に日本のアニメは企画してから放送や配信の開始までに約2年の期間がかかると言われており、仮にCovid-19の蔓延が2020年中に収まったとしてもその影響は数年に及ぶと推測される。

 勿論、テクノロジーの進展により、アニメ制作の現場もデジタル化が進められており、感染症対策の実施に伴う業務のリモート化等による制作効率への影響は制作会社の体制や作品の性質により大小があるものと思われるが、Covid-19に対する治療法が確立されずに、いわゆる”with コロナ”の状態は当分続くことが予想されるため、状況に対応するための制作現場の負担は当面、金銭、労働量双方で大きくなると思われる。さらに、企画そのものあるいはビジネスモデルの変換を迫られるプロジェクトも多く、新作の減少や海外プラットフォームと組んだ配信主体のプロジェクトの増加といった現象も起こり得るものと考えられる。


調査1.2020年4月期 アニメの制作、放送・配信への影響

・2020年4月期に新作の放送や配信を開始、あるいは前期から放送を継続するアニメ作品で、正味で20分以上の新作を毎週のそれに準ずるペースで放送あるいは配信しているものを対象として、各作品に関し公式HP等をもとに調査を行った。
・表中の★印は新作放送の延期等の形で放送や配信に影響を受けた作品。
・初出プラットフォームは、関東地区を中心とする地上波放送局あるいはインターネット媒体のプラットフォームを対象として記載。
・状況は2020年6月末日時点での公式HP等の発表内容をもとに記載した。

放送
or配信開始日
番組タイトル 初出プラットフォーム 状況
2020年4月以前 ★ちびまる子ちゃん  CX系列 5/3放送分以後再放送⇒6/21放送分より新作放送再開 
★サザエさん CX系列 5/17以後再放送⇒6/21放送分より新作放送再開
★ワンピース CX系列 4/26放送分以後再放送⇒6/28放送分より新作放送再開
クレヨンしんちゃん EX系列
ドラえもん EX系列
★ヒーリングっど・プリキュア ABC(EX)系列 4/26放送分以後再放送⇒6/28放送分より新作放送再開
★ポケットモンスター TX系列 4/26放送分以後再放送⇒6/7より新作放送再開
★BORUTO-ボルト-NARUTO NEXT GENERATIONS TX系列 5/3放送分以後再放送⇒7/5より新作放送再開
★妖怪ウォッチJam TX系列 5/1放送分のみ再放送⇒5/8より新作放送再開
★キラっとプリ☆チャン TX系列 5/3放送分以後再放送
★ブラッククローバー TX系列 5/5放送分以後再放送⇒7/7より新作放送再開
★ゾイドワイルドZERO TX系列 5/29放送分以後再放送⇒6/19より新作放送再開
あひるの空 TX系列
★名探偵コナン YTV(NTV)系列 4/4放送分以後、旧作デジタルリマスター版を放送
それいけ!アンパンマン NTV系列
おじゃる丸 NHK総合
忍たま乱太郎 NHK総合
おしり探偵 NHK総合
2020年4月以後 ★アイドリッシュセブン Second BEAT! MX他 4/26放送分以後、新作放送延期
★天晴爛漫! MX他 5/1放送分以後新作放送延期⇒7/3新作放送再開予定
アサティール 未来の昔ばなし J:COM
アルゴナビス MBS(TBS)系列
アルテ YTV、MX他
イエスタデイをうたって EX他
乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった MX他
かくしごと MX他
かぐや様は告らせたい?(第2期) MX他
カードファイト!! ヴァンガード外伝 イフ TVA(TX)系列
★ガンダムビルドダイバーズRe:RISE (第2期) YouTubeガンダムチャンネル 5/14以後、過去作品のセレクション配信
啄木鳥探偵處 MX他
★キングダム(第3期) NHK総合 5/3放送分以後新作放送延期
★ギャルと恐竜 MX他 5/24以後新作放送延期
グレイプニル MX他
攻殻機動隊 SAC_2045 Netflixオリジナル
★社長、バトルの時間です! MX他 6/14放送予定分以後1週間遅れ
シャドウバース TX系列
★食戟のソーマ 豪の皿                      MX他 4/25放送分以後新作放送延期⇒7/18新作放送再開予定
白猫プロジェクト ZERO CHRONICLE MX他
新サクラ大戦 the Animation MX他
邪神ちゃんドロップキック’(第2期) MX他
7SEEDS(第2期) Netflixオリジナル
球詠 MX他
神之塔-Tower of God- MX他
継つぐもも(第2期) MX他
★デジモンアドベンチャー: CX系列 4/26放送分以後放送休止、「ゲゲゲの鬼太郎」の再放送⇒6/28より新作放送再開
★デュエル・マスターズ キング TX系列 5/3放送分以後、再放送⇒6/1より新作放送再開
トミカ 絆合体アースグランナー TX系列
波よ聞いてくれ TBS他
★ハクション大魔王2020 YTV(NTV)系列 5/30放送分以後の新作放送延期⇒6/20より新作放送再開
八男って、それはないでしょう! MX他
爆丸アーマードアライアンス YouTube爆丸チャンネル他
BNA ビー・エヌ・エー CX他
★富豪刑事Balance:UNLIMITED CX他 4/24放送分以後放送延期⇒7/17より新作放送再開予定
フルーツバスケット 2nd Season TX系列
★文豪とアルケミスト~審判ノ歯車~ TX他 4/25、5/9新作放送休止、5/16より再開
プリンセスコネクト!Re:Dive MX他
ベイブレードバースト スパーキング YouTubeタカラトミーチャンネル
★放課後ていぼう日誌 AT-X、MX他 4/28以後新作放送休止⇒7/28以後新作放送再開予定
本好きの下克上(第2部) MX他
★魔神英雄伝ワタル 七魂の龍神丸 YouTube Bandai Spirits 第3話、第4話の配信を延期
★ミュークルドリーミー TX系列 5/3以後の新作放送を延期⇒5/31より新作放送再開
★メジャーセカンド(第2シリーズ) NHK Eテレ 5/2以後の新作放送を延期⇒7/11より新作放送再開予定
★もっと!まじめにふまじめ かいけつゾロリ NHK Eテレ 5/24放送分以後の新作放送延期⇒7/5より新作放送再開予定
★遊☆戯☆王SEVENS TX系列 5/9放送分以後、新作放送を延期⇒6/5より新作放送再開
LISTENERS リスナーズ TBS他



2.劇場用アニメの公開への影響

 2020年2月末日以後の公開を発表していた国内制作の劇場用アニメ映画の主要タイトルへの影響を、各作品の公式HP等で発表された情報をもとにまとめた(詳細は「調査2」参照) 。

 BDやDVDといったビデオグラムの売上が縮小し、これらの販売を中心に据えたテレビアニメのビジネスモデルが崩れる中で、劇場用アニメ映画の制作が増加し、10億円以上の興行収入を稼ぐ作品も増加する中、2020年も多くの作品が公開を予定していた。しかし、Covid-19の影響は2月下旬頃からすでに懸念されており、3~4月を中心とした公開を予定していた作品の多くが公開を延期した。例えば、2月28日の公開を予定していた「映画 しまじろう しまじろうとそらとぶふね」、3月7日の公開を予定していた「映画ドラえもん のび太と新恐竜」は安倍総理からの大規模イベントの自粛、縮小等の要請が発表された翌日の2月27日に、3月20日の公開を予定していた「映画 プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な一日」は3月14日に公開の延期を発表した。また、4月7日に東京他7都道府県、4月16日には全都道府県に特別措置法に基づく緊急事態宣言が発令され、多くの映画館が休業に入ったことで、結果的には2月末から8月までの時期に公開を予定したほとんどの劇場用アニメ映画の公開が延期された。

 劇場用アニメ映画の公開時期としては、3~4月の春休み、4~5月のゴールデンウィーク、7~8月の夏休みと、12~1月の年末年始が休日の多い最も集客が多い時期として挙げられるが、これら4つのチャンスのうち2つが失われたことになる。また、劇場用アニメ映画の多くは興行を行うだけでなく、公開前、公開中の時期に合わせた関連商品、販促利用スポンサーとのタイアップキャンペーンを行うとともに、イベント等を組み合わせて集客と作品関連収益の最大化を目指すが、核となる映画公開の延期により、周到に準備された計画が大きく崩れることになった。特に公開を直前に控えていた3~5月公開作品においてこの影響は大きく、未公開の映画の関連商品が先に発売されるケースも多く見られた。

 特別措置法に基づく緊急事態宣言の解除に伴い、多くの劇場は座席の間隔を空ける等の配慮のもとに営業を再開したが、6月末日時点において公開延期後の公開時期が発表されない作品も数多くある。秋には「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」(10月16日公開予定)のような人気作品の公開が控えており、秋公開の作品が予定通りの公開を目指す中、館数確保の調整がつきにくいものと思われる。

 そうした中、6月に公開を予定していた「泣きたい私は猫をかぶる」は、4月27日に公開の延期を発表、4月30日にNetflixによる全世界配信を発表、6月18日に配信を開始した。 「泣きたい私は猫をかぶる」は、「ペンギン・ハイウェイ」で注目されたスタジオ・コロリドの劇場用映画第2弾となる作品である。幹事会社のフジテレビと、企画の立ち上げを主導していたツインエンジンが話し合い、劇場での上映が不確実なこと、作品を世に出したい思いを優先するクリエーターの意志を確認し、製作委員会の同意を得たという[1]。

 Covid-19に関する不確実な状況が進む中、十分な数の劇場での公開ができるかは不確実であり、さらに劇場の座席をフルに使った公開がいつからできるかということはさらに不確実と言わざるをえない。そうした中で、配信での先行公開に踏み切った作品が一定の成功を収めることで、これまではシリーズを中心に行われていた日本のアニメの海外配信プラットフォームでの独占公開が映画のような長尺作品にも波及していく可能性が考えられる。
 東宝は「風の谷のナウシカ」、「もののけ姫」、「千と千尋の神隠し」、「ゲド戦記」の4作品の上映を6月26日から全国372館で開始した。これらの作品は上映とともに国内興行収入のトップ3を独占している[2]。4作品ともすでに劇場公開された作品だが、その後にビデオグラムやテレビ放送で初めて作品に触れたファンも多い。年月を経ての劇場公開が大きな人気を集めた背景には、多くの来場者が劇場で作品を観る価値を感じたことが推測される。

 映画館の休業期間中には、多くのファンが配信を通じて映画に触れる機会を持ち、その利便性や豊富なプログラムの魅力を実感したものと思われる。実際にNetflix等の映像配信プラットフォームへの加入者はこの時期に大きく増加しているという[3]。しかし、東宝のジブリ作品の興行成績に見られるように、アニメを劇場で観ることに価値を感じているファンが数多く存在することも事実だろう。Covid-19への対策が確立されない中では、今後しばらくの間、劇場の100%の座席を使うことができない期間が継続される可能性もある。これは、観客を集められるより強い作品がより多くの劇場を使って公開する可能性を示唆している。そうした状況の中で発表の場を配信に変更したり、あるいは最初から配信に発表の場を求める作品も現れるだろう。” withコロナ” の状況においては日本のアニメに関してはそうした形で劇場と配信プラットフォームはせめぎ合いながら共存していくものと思われる。


調査2.主な劇場用アニメの公開への影響

・公式HPあるいは関連HPで2020年2月末日以後の公開を発表していた国内制作の劇場用アニメ映画の主要タイトルを対象とした。
・配給会社は、各作品の公式HPに公表されていた会社のみを記載。
・延期後の公開時期については、2020年6月末日時点での公式HP等の発表内容に準じた。

当初公開予定日 作品タイトル 状況
2020年2月28日 映画 しまじろう しまじろうとそらとぶふね 公開延期 2月⇒2021年春公開予定
2020年3月7日 映画ドラえもん のび太の新恐竜 公開延期 3月⇒8月公開予定
2020年3月20日 映画 プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な一日 公開延期 3月⇒5月⇒公開時期未定
2020年3月28日 Fate/stay night [Heaven’s Feel]』III.spring song 公開延期 3月⇒公開時期未定
2020年4月10日 プリンセス・プリンシパル Crown Handler 第1章 公開延期 4月⇒公開時期未定
2020年4月17日 劇場版 名探偵コナン 緋色の弾丸 公開延期 4月⇒2021年4月公開予定
2020年4月24日 映画 クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ4人の勇者 公開延期⇒公開時期未定
2020年4月24日 劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン 公開延期 1月⇒4月⇒9月公開予定
2020年5月8日 どうにかなる日々 公開延期 5月⇒公開時期未定
2020年5月15日 魔女見習いをさがして 公開延期 5月⇒秋公開予定
2020年5月15日 サイダーのように言葉が湧き上がる 公開延期 5月⇒公開時期未定
2020年5月16日 映画「ギヴン」 公開延期 5月⇒公開時期未定
2020年5月29日 アニメーション映画  思い、思われ、ふり、ふられ 公開延期 5月⇒公開時期未定
2020年5月29日 少女☆歌劇 レヴュー・スタァライト ロンド・ロンド・ロンド 公開延期 5月⇒公開時期未定
2020年6月5日 泣きたい私は猫をかぶる 6月公開予定⇒6月18日、Netflix全世界配信
2020年6月27日 シン・エヴァンゲリオン劇場版 公開延期 6月⇒公開時期未定
2020年6月26日 それいけ!アンパンマン ふわふわフワリーと雲の国 公開延期 6月⇒2021年夏
2020年6月 モンスターストライク THE MOVIE ルシファー 絶望の夜明け 公開延期 6月⇒11月公開予定
2020年7月10日 劇場版 生徒会役員共2 公開延期 7月⇒公開時期未定
2020年7月10日 劇場版ポケットモンスター ココ 公開延期 7月⇒今冬公開予定
2020年7月23日 機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ 公開延期
2020年初夏 さよなら、ティラノ 公開延期 初夏⇒公開時期未定
2020年8月3日 STAND BY ME ドラえもん2 公開延期 8月⇒公開時期未定
2020年夏 ジョゼと虎と魚たち 公開延期 夏⇒公開時期未定
2020年夏 Tokyo 7th シスターズ-僕らは青空になる- 公開延期 夏⇒公開時期未定
2020年9月 劇場版『美少女戦士セーラームーンEternal』前編 公開延期  9月⇒2021年1月



3. ファンイベントやコンベンションへの影響

 日本のアニメやマンガの人気が全世界に拡大していることは衆知のことだが、ファンの増加とともに世界中でファンイベントが開催されるようになり、その数は1,000を超え、参加者は2,000万人を越えるという[4]。イベントの規模は数十万人の参加者を動員するものから数百人のものまで様々だが、大型のイベントは、日本のアニメ関連企業にとって重要なプロモーションの場となっている。こうしたファンイベントやアニメやマンガに関連した展示会、日本のアニメの海外への紹介の場としてあるいは商談の場として大きな影響力を持つ世界各地のアニメーション映画祭も、Covid-19が蔓延を始めた2020年2月以後、リアルでの開催を中止している。

 国内の関連主要イベントでは、まず3月21、22日に開催を予定していた「AnimeJapan 2020」が2月27日に開催中止を発表した。3月13~16日に開催を予定していた「東京アニメアワードフェスティバル2020」が3月2日にリアルイベントの開催中止を発表、アニメイベントではないが、参加者50万人を越える同人誌即売会でアニメ関連企業も企業ブースを出展する「コミックマーケット」も5月2~5日に予定していた「コミックマーケット98」の開催を中止し、オンライン上で「エアコミケ」を開催した。さらに、7月に入ってコミックマーケットを運営するコミックマーケット準備会は、「コミックマーケット99」の2020年12月の開催中止を発表している。毎夏名古屋に世界のコスプレーヤーを集めて開催されていた「世界コスプレサミット」も2020年の開催を中止しオンラインイベントに形態を変更することを発表した。

 これらのイベントのリアル開催の中止により、アニメを送り出す側からみれば、世界のアニメファンや関連企業に向けた作品のプロモーションの場が失われ、商談の場が失われた。ファンの側からみれば、仲間と交流して一体感を得る機会、そして関連商品の流通が少ない海外のファンはお気に入りのアニメの関連商品を手に入れる機会が失われた。

 7月2~5日の開催を予定していた北米最大級のファンイベント「Anime Expo 2020」は、アニプレックス、Production I.G、ワーナーブラザース、ポニーキャニオン、Crunchyrollといった企業によるパネル等と、国内で長く開催されてきたアニソンのフェスイベント「リスアニ!」の海外向けオンライン版「Anime Expo Lite ×リスアニ!Live L.A」、料理から空手、生け花などの日本文化を紹介するワークショップ等を組み合わせたオンラインイベント「Anime Expo Light」を7月3、4日に開催した[5]。さらにアメコミ中心の北米最大級イベント「Comic-Con」は「Comic-Con @ Home 2020 」(7月22~26日)の開催を発表しており[6]、90年代前半にスタートした老舗イベントであるワシントンD.Cの「Otakon」は「Otakon Online」(8月1日開催予定)の開催を発表している[7]。北米に限らず、ヨーロッパ、アジア等各地域のファン向けイベントが開催の中止あるいはオンライン化を発表している。また、1960年から開催され、アニメーション映画祭としては最も長い歴史を持つ「アヌシー国際アニメーション映画祭」は、6月15~30日にオンライン開催された。

 オンラインでの開催は、各イベントの主催者にとっては苦肉の策だが、オンラインならではの効果もある。7月3、4日に開催された「Anime Expo Light」は、YouTube、Twitchを使って無料配信され、それらの多くを日本からも視聴できた。アニメ関連企業が開催したパネルの中には合計で10,000人以上の視聴者を集めたものもあり、リアル開催で使うホールやボールルームのキャパシティの数倍の参加者を集めたことになる。また、通常はロサンゼルスで開催される「Anime Expo」のパネルを東京の自分の部屋から見ることはこれまで経験できなかったことだ。予算や手間のかけ方はパネルごとに大きく異なるが、ライブ演奏や声優によるバラエティを組み合わせるなど例年行われていたリアル開催のパネルとは異なる要素を組み合わせて効果をあげていたものもあった。こうした部分は、リアル開催が再開された後も参考になるものと考えられる。ただ、例年のリアル開催と同様にオンラインへの参加を有料とした場合にどんな結果になったかはわからない。また会期中に延べ35万人が参加する会場の熱気や一体感、巨大イベントに参加することの高揚感をオンライン上で再現することは難しい。数が増えたとはいえ、通常少数派と見られている人たちが集まって楽しむ“場”としての機能に変わるものはまだオンライン上にはない。多くのファンにとって企業のパネルやアニソンのライブは後からついてきたものであり、ファンが集まる“場”としての機能こそがファンイベントが本来持っていた価値であるからだ。こうした点が、今後同様な状態が続いた場合の課題になるものと思われる。


4.最後に

 改めて調査1の結果をみると、Covid-19蔓延の影響を受けて新作の放送や配信を延期、あるいは放送開始前に延期を決めたエピソード数を計算すると30分のテレビアニメ200話分以上となる。調査に加えていないミニ番組や番組内アニメを加えれば、影響は何割増しかで拡大するだろう。これらの多くは時期をずらした放送や配信の実施がすでに発表されているが、この期間中の売上は後ろ倒しになり、中小規模が多いアニメ制作会社の経営を圧迫するものと推測される。それぞれの会社のデジタル化の進展度合にもよるが、制作活動のリモート化を恒常的な体制として実現するには相当額の設備投資も必要になる。こうした状況の中で資金不足に陥った中小の制作会社に対する海外企業の買収といった事態も考えられるため、国や関係機関からの細やかな支援が求められるところだろう。

 アニソンのコンサートや番組イベント、2.5次元舞台そしてこれらのライブビューイングといった関連イベントの開催中止による売上の遺失も大きい。さらに前述したように劇場用映画に関しては、映画館の休業中に集客の最盛期のうち2つを失い、再開後も十分な座席を使えない状況が続く。これらの機会の遺失は製作委員会に投資し、アニメを使った事業を行う様々な分野の企業の経営に影響を及ぼす。これまで50年以上にわたってほぼ順調に成長してきた日本のテレビアニメ産業にとっては初めてと言ってよい大きな前年割れが起こるものと推測される。ただこれも前述したように、日本の場合、アニメ作品の企画から放送や配信、公開まで約2年の期間がかかるため、再度の緊急事態宣言のような事態が起こらなければ、2021年には表面的な数字はある程度回復するものと思われる。しかし、2022年後以後の企画に関しては、投資金額の減少による作品の減少、製作にあたってのメインプレーヤーの交代、ビジネスモデルの転換とこれに伴う作品テーマの変質といった可能性が考えられる。

 しかし、一方でこうした事態はアニメ産業にとって拡大のチャンスでもある。感染症対策による制作面での支障という点に関しては、アニメ以上に実写映像作品への影響が大きく、”withコロナ”という状況下での制作方法については現在も模索が続けられている。制作の休止によるコンテンツ不足は、テレビ、映画、配信といったメディアの区別がない課題であり、アニメ制作のリモート化が進展すれば、実写映像作品の供給不足を反映したアニメの需要拡大の可能性も考えられる。アニメの人気は世界に拡大しており、幅広い年代層がこの表現形式を受け入れる下地はすでにできている。

 冒頭においてCovid-19の蔓延という事態はコンテンツ産業にとっては、従来のメディアから配信メディアへの移行が進展する中で起きたことを指摘したが、” with コロナ” の状況下で促進された様々な分野でのオンライン化の進展に伴って、映像配信の浸透はさらに進むものと思われる。ただ、映像配信は必ずしも劇場やテレビの代替物ではなくそれ自体の特性を持っており、この特性を活かした企画が生まれ、定着する可能性も考えられる。例えば日本のアニメ映画の全世界同時公開がこれまでも実現しにくかった中で、配信による全世界同時公開と周辺事業の組み合わせによるより大きな事業展開の可能性が生まれる。作品を中心としたプロジェクトの展開時期が放送枠の事情に影響を受けない点も配信の特性だろう。 Covid-19の蔓延は、アニメ産業に様々なマイナスの影響を及ぼしている。しかし、事態に対応した新たな取り組みを考えるとともに、これに適切な支援が向けられれば、成長の勢いを取り戻し、従来以上の影響力を持つこともできるものと考える。


1.https://toyokeizai.net/articles/-/357227?page=2
2.https://eiga.com/ranking/
3.https://gigazine.net/news/20200422-netflix-2020q1/
4.https://ioea.info/whatsioea/
5.https://www.anime-expo.org/2020-lite/
6.https://www.comic-con.org/cci/2020/athome
7.https://www.otakon.com/online/

カテゴリー: レポート